2017.1/20


電気外祭り 2016 WINTER in 新宿

by ぶたばら300g

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【~イントロダクション~】

 幼少期より現在に至るまで、私は兎にも角にも”間の悪い男”であった。
 小学二年生の頃には五度連続で運動会の日に大雨を降らせ、高校受験の前日には重篤な流感で文字通り倒れ、高校の卒業式はインフルエンザで欠席、ディバインハート・カレンのマスターアップ直前には水疱瘡に罹患し二週間以上屍同然の体たらくであった。
 小学二年生の当時、五度の中止を経て前代未聞の”雨天強制決行”と相成った土砂降りの運動会で、私は泥濘むトラックを駆け抜けながら「これが人生と云う物か」としみじみ感じたものである。
 思えばあの時から「そういう星の下に生まれた」と自覚するに至ったのではないだろうか。
 私の名前は『ぶたばら300g』。間の悪い男であると同時に、しがないゲームグラフィッカーの一人である。

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【~電気外祭り前日~】

 私は首筋に途方もない激痛を感じてベッドから飛び起きた。
 その日は一二月二七日、来るべき電気外祭り2016にネクストンスタッフとして参加するべく東京へ出発する日であった。
 本来であれば気力体力共に万全で挑むべき大一番という初日に、私は五年に一回あるかないかという壮絶なレベルの寝違えに叩き起こされていた。首筋はまさにカッチンコッチンである。
 これから五日間、電気外祭りとコミケC91という国内最大規模のお祭り騒ぎに首がカッチンコッチンの男が放り込まれて、果たして生きて帰る事が可能であろうか。特にコミックマーケットともなれば、地獄の祝祭の方がまだ慎ましやかだと断言出来る程の慌ただしさである。
 自分の間の悪さに頭を抱えたかったが首が動かない為に断念して、大急ぎで服を着替えた。
 私の首がどれだけカッチンコッチンになろうが、例えネクストンの本社ビルが爆弾で吹っ飛ぼうが、新幹線は定刻通りに東京大阪間を行ったり来たりしているのだ。それに乗り遅れるような事になれば、元からさほどない社会的信用が目減りしてしまう。
 私は世間体を死守するために大急ぎで新幹線に飛び乗ったのであった。

 新幹線の隣の席には、エレンシアのブランド長である『亮精類』が鎮座ましましていた。
 普段は快活なウィル・スミスのような人相の彼は、その時だけはザ・ウォーカー出演時のデンゼル・ワシントンもかくやという険しい面構えであった。より一層日本人離れした顔色の彼を慮って、私はたまらず声をかけた。
 首の痛みに吐き気すら覚えていた私は、普段より人一倍他人の痛みに敏感であった。
 亮精類は気だるげに一瞥だけくれると、前を向いたままポツリと答えた。
「朝四時まで酒を飲んでの乱痴気騒ぎよ。なので、些か身体が重い」
 少しでも心配したのが阿呆らしくなる程に自業自得であった。私は嘆息して隣に着席した。
 目を閉じて新幹線の振動を首に感じながら、私は静かに黙想する。亮精類の二日酔いは身から出た錆だが、私の寝違えは一体何処から出た錆なのだろうか? 私は出所不明の錆を浮かせたまま、この激動の五日間を生き抜かねばならないのか。
 不安に押し潰されそうになりながら、私は品川に到着するまで束の間の仮眠を取ったのだった。

 正午を少し過ぎた頃に、我々は品川駅に到着した。
 品川駅は私にとって東京大阪間を隔てる明確な場所である。何故なら、エスカレーターを空ける側が左右逆になり、否応なしにカルチャーショックを与えられる最初の場所だからだ。今回も左右逆に乗り込んでしまい周囲から白い目で見られてしまった。
 世界的基準を考えれば大阪に分があるとはいえ、郷に入れば郷に従えである。権力者と同調圧力に何よりも弱い私は、長いものには巻かれろ精神で今まで生きてきたのだ。今更エスカレーターの空ける側が逆になるぐらい何だと言うのだ。
 そうこう言っている内に新宿に到着した我々は、ホテルのロビーに荷物を預けた後、すぐに「新宿NSビル」へと足を運んだのだった。
 電気外祭り2016の前日設営の為である。

 

 会場はかなり見晴らしの良いフロアであった。スタッフ一同は物珍しそうに周囲を見渡しているが、私は今朝から首の可動範囲の狭まりが留まる所を知らない。止むに止まれずブース前で仁王立ちである。
 そうしているとただの閑人か、あるいは何をしに来たのか不意に忘れてしまった間抜けに見えるので、私はさっさと設営作業を始めてしまう事にした。





 私の首は相も変わらずカッチカチであったが、二日酔いでデンゼル・ワシントンに似ていた亮精類はすっかり快活なウィル・スミスに戻っていた。バイタイリティが振り切れ過ぎていて、もはや意味不明である。
 イベントスタッフの長老であるグレ彦とタッグを組み、テキパキと設営作業を終わらせていく。



 そして一時間もしない内に私はたちまち手持ち無沙汰になった。もうほぼほぼ設営が完了してしまったのだ。
 こういう時、私のような生来の小心者は閑である事に罪悪感を抱き居心地が悪くなってしまう。やたらと忙しいと周囲に喧伝して回ってしまうお茶目な悪癖もこのせいであろうと思われた。
 仕方がなくなり長老であるグレ彦に指示を仰いだところ「愚か者め。明日出来る事は断じて明日やるのだ」とのお達しであった。これ以上に含蓄のある言葉がこの世の何処に存在しようか。感動で胸が打ち震えたのは言うまでもない。
 私は持ち前の素直さを遺憾なく発揮し、思う様に気を抜いた。気を抜きすぎてこれ以降一枚も設営風景を撮影していないが、それも私の生真面目さが勢い余った結果なので何卒ご容赦頂きたい。



 私達は明日からの勝負の四日間に向けてお互いを鼓舞する為に宴の席を囲む事にした。
 麦酒を片手に超厚切りのローストビーフを嫌というほど胃袋に突っ込む、まさに夢の様な時間であった。農耕民族としての誇りなどクソ喰らえである。
 各々が食事を堪能した後は早々と解散。明日に備えて早めに休もうではないか。

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【~電気外祭り当日~】

 その日の目覚めは最悪だった。角刈りのデンゼル・ワシントンにヘッドロックをかけられる悪夢に魘されたからだ。
 原因は言わずもがな、昨日から引き続き機能停止している我が愛しの首が絶え間なく鈍痛を訴えているからに他ならない。今朝も私の首はカッチカチである。先が思いやられる事この上ない。
 しかし現状に嘆いている閑などない。私の首が如何にカチカチであろうと、電気外祭りは時間通りに開催されるのである。私は大慌てで準備を済ませ、他のイベントスタッフと合流したのだった。

 会場の雰囲気は間違いなく前日とは異なる物であった。まず目に飛び込んできたのは会場前の人、人、人、まさしく長蛇の列であった。



 ちなみに時間は早朝の七時前、電気外祭りが開催される二時間以上前である。
 寒風吹きすさぶ冬の早朝に、この好事家達はこれから開場まで二時間以上待機しようと言うのだ。これを情熱と言わずして何と言うのか。
 列を目の当たりにして圧倒されたスタッフ一同の目が据わり始めたのも無理からぬ話だ。完全に臨戦態勢である。
 一気に空気が張りつめるが、その緊張感が中々に心地よい。これもイベント開始前の妙味と言えよう。



 そして程なくしてブースの設営が完了した。昨日は二日酔いで人相が変わっていた亮精類も、本日のブースの仕上がりには満足そうである。



 こちらは本日のお品書きである。
 ちなみに、我々スタッフが一様に身に着けているクリーム色の愛らしいパーカーは「アマカノ+オリジナルパーカー」なる衣服で、胸には純真無垢の権化と言っても差し支えない愛くるしい姿のアザラシがプリントされている弊社渾身の一品である。更に今回のイベントでは、アマカノの関連商品を購入するとピロ水先生のサイン色紙まで付いてくる至れり尽くせりの内容なのだ。
 私は個人的にアマカノ升が気になりすぎてスタッフ業務に影響が出る程であったが、お目が高いユーザー様が多かったようで升は早々に売り切れてしまっていた。



 そして午前九時より、ついに電気外祭り2016が開始された。弊社のブースにも多くのユーザー様にお越し頂き、感謝に堪えない気持ちであった。
 昼を過ぎた辺りで、既に首だけではなく脚までもが疲労によりガクガクの有様であったが、最後まで持ちこたえたのはユーザー様のお声がけあっての賜物であろう。
 午後一時より開始されたガチャイベントも非常に盛況で、こちらも多くのユーザー様にお並び頂いた。私はもっぱらカウベル担当で、軽く一生分はカウベルを振ったように思う。私がカウベルを振り慣れた頃には忙しさのピークも過ぎ去り、他社様のブースを見て回ったり、軽くユーザー様と談笑させて頂いたりと、お祭り気分を存分に堪能した。



 始まりがあるものには、すべて終わりがある。あの伝説のエンドレスエイトですら八週で終了した。
 森羅万象あまねく事象に終わりが存在するならば、電気外祭り2016もその例外ではない。正確に記述すると午後五時に終了である。
 我々は来場者の少なくなった会場で撤収作業を始めながら、サザエさんのエンディングテーマを聞いた時のような寂寥感を感じていた。会場中のブースが少しずつ片付けられていく様は、どこか物悲しく儚げな光景だったからである。
 しかし、我々ネクストンスタッフにはノスタルジックな感傷に浸っている余裕はない。旅はまだ途上、全日程中二日しか終わっていないのである。
 明日からは東京国際展示場でコミケC91が我々を待ち構えている。未だに首がカチコチのお荷物野郎を抱えたままのネクストンスタッフは、果たしてこの試練を乗り越える事が出来るか? そして、イベント中にお荷物野郎の首は復調するのか!?

 ――それはまた別のお話である。
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